イタリアンスマイルズ

  •  こちらのブログはイタリア在住の映像作家池田剛の撮影する映像とエッセイを掲載しているものです。製作中の映画「GLI ARTIGIANI」の映像を始め、イタリア各地の心温まる映像ビデオポッドキャスティングという形でお届けしています。

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2008年9月12日 (金)

ユダヤ人 - Birkenau 4

 昼もとうに過ぎ、ようやくビルケナウの全体を見渡すことができ、死の門のある入り口に戻ってきた。そろそろ第一収容所に行かなくては時間が足りなくなってしまう。

 前からそうだけれども、ユダヤ人というとどうも距離を置いてしまう自分がいる。目の前の人がユダヤ人かどうかなんてすぐにわかるものではない。とはいえ帽子にヒゲ、もみあげの人は近寄りがたいし、崇高な感じもしてしまう。それはやはりキリストを迫害していた時代のユダヤ人像が僕の中にあるからだろうか。気高く伝統を重んじ、規律に厳しいようなイメージ。
 その反面、自分たちの国を失い、ナチスに迫害されていたことを思えば、そこから生まれる他者を敬う気持ちはキリスト人よりも大きいのではないか? と考えたり。それとはまた別に、ナチスのやってきたこととパレスチナでのことと、どれだけの違いがあるのか?

 そんなことを考えていると入り口前に団体がいた。なんと彼らはデカデカとしたイスラエル旗を持っているではないか! いままでどことなく躊躇しがちだったユダヤ人がここにいたら、思い切っていくしかない。
 カメラを向けると友好的な彼ら。そしておだてると少しハニカミながらも笑顔で写真を撮らせてくれる。場所が何かを物語るようだが、人として何も変わらず普遍的だと教えてくれたようだ。人の本質や求めるものは大して差がないということ。僕の旅はそれを確認するためのものだということを改めて想った。



2008年9月11日 (木)

バラック - Birkenau 3

 晴れ上がった空と時おり花も顔を見せる草原。その向こう側に見えるのが急増した収容者たちのための宿泊施設のバラック小屋だ。内部は既存の様々な映像で映し出されているそのままである。多少の緊張はあったとはいえ、僕はそこで思いがけない体験をする。こういうケースでは試しに下見をしてから撮るのでなく、そのまま自分の気持ちを反映させるためにもカメラを回したまま入ってみるものだろう。と、初めて入るのにも関わらず、カメラを回したまま誰もいないバラックへ。
 なるべく音を立てず静かな空気を収めたかった。パンをしながら内部を撮り続けるが、とてつもないものが僕の肩を叩く。初めて入った時だったのもあるのか、孤独な中にいてたくさんの人の想いが集まってきているようで、胸がつまった。こういう場では極めてクールに決められるはずの僕も、さすがにここではこれ以上カメラが回せなかった。汗だくだった。

 夏場だっただけに冬場の寒さの中で収容者がいかに厳しい中で過ごしてきたかの一端を感じることはできなかった。しかし最低な作りの中に多くの人が押し込められていた事実はイメージできる。ここで寝泊まりしていた人たちの想いをイメージしてみる。どれだけの未来を想像していたのだろう。
 たとえばチェ・ゲバラや塩狩峠の長野さんなどは不幸な亡くなり方とはいえ、本人としては意志のある死であろう。カミカゼの戦死者にしても意は汲まれていただろう。しかしここにいた人は意味のない不安の先に見える終わりである。
 もちろん人によって捉え方は異なっていただろうが、おそらくそのほとんどが閉塞感で行き詰まっていたはず。いろんな作品に触れていく中でも僕自身が感じるのだから、彼らの想いは。。


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2008年9月10日 (水)

破壊されたガス室 - Birkenau 2

 鉄道引き込み線の先には収容された人々それぞれの国の言葉で刻まれた碑がある。そしてそのすぐ横には敗戦後ドイツ軍が証拠隠滅のために破壊したとされるガス室跡がある。僕はいつもこの「証拠隠滅のため」という記述を読むたびに疑問を感じる。そしてそれに対する明解な記述は読んだことはない。
 敗戦後に破壊したというのであれば、独裁者の指示にせよ、そうでなくとも、いずれにせよ自らの行った行為に対して隠匿の内に虐殺を繰り返していたというのか? そんなはずはない。ヨーロッパの多くの地域から人々は運び込まれていたわけだし、そこから逃れようとしていた人も多くいた。ということは誰もが知りうることである。ならば戦争云々、勝敗ではなく、虐殺していたことは悪であるという認識は彼らにはあったはずだ。でなければの「証拠隠滅」などという悪あがきなどするまい。
 遺体焼却に携わった収容者も定期的に虐殺していたということを考えてみても、最後のこの悪あがきも彼らの計画性であることに他ならない。しかし最後の最後での「証拠隠滅」などしたことが不思議でならない。大量殺人の責任は明確なのだから、裁判で裁かれるなどという以前にガス室を消す意味はどれだあるのだろう。後につけられた名前だろうが絶滅収容所と呼ばれるところでは、目的は一つしかない。僕には彼らの意図がよくわからない。

 ガス室の他にも、入所したばかりの人の荷物置き場、純然たるシャワー室、また遺体を野焼きした場所、その灰を捨てたとされる池もある。その各場所ごとに当時の写真がパネルで展示されてあり、凄まじい阿鼻叫喚が広がっていたことを知らされる。それはこの場で行われ、そして僕はその場所に立っている。人は閑散としているが、ここには地球上にも類を見ないほどの数多くの想いが遺っている。


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2008年9月 9日 (火)

第二強制収容所ビルケナウ - Birkenau 1

 アウシュビッツといえば3つ収容所が存在した。いわゆる第一収容所、第二のビルケナウ、そしていまは見られない第三のモノビッツ。やはり最初に目指すは第一収容所。だったはずが普通の人のお決まりのルート通りではなく列車で来たせいで、間違えて第二のビルケナウに来てしまった。まぁこれも運命だということで、そのままビルケナウを見学していくことにした。

 まずやはり目に入ってくるのは、あの鉄道の引き込み線。人々の意思などいっさい無視した体制。それは戦争下だからというものではなく、人々の深層の奥底に潜んでいる、自分と他人を隔てる溝を大きくしようとしている意識が顕在化したもの。自分は美徳であり、それ以外は自分を脅かすもの。それはお互いの中に存在していただろう。しかし強いもののほうが支配していた。それは現代になってなくなったわけではなく、生きている限りつきまとうものである。この歴史が呼びかけているようでもある。


Auschwitz-Birkenau State Museum, Poland


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