外人として合法的に生きる以上、避けて通れない道。朝早くから警察へと向かった。毎度のことだが日本ではありえないことばかり起きる。ご存知の方も多いかと思いますが、イタリアでの滞在許可についてはいろいろと苦労が絶えない。どう考えてもおかしい対応の警察に振り回されながら、毎度ネガティブな気持ちにさせられても、前向きになるしかない。ある意味、そんなポジティブな人間形成をさせられるのはいいことなのだろうか?
とにかくそんなこんなで寒い中、待ちくたびれた僕は家に帰り、近くのピッツェリアで昼をとる。「la tana del ghiottone」食いしん坊の館と訳すべきか? 僕の好きなシーフードピザはなかった。タマネギのピザとどっちにしようか迷った挙げ句「イタリア」というピザを注文した。
Italia (pomodoro, mozzalerra, ruccola, pomodorino, ricotta) - 7ユーロ
具だけを見て注文してみた。pomodorino は小さなトマトのことで、上にルッコラがパラパラとのっていればおいしいだろうと、その程度の軽い気持ちで注文した。ピザの厨房がオープンになっていて、かまども丸見え。ピザを作っているのは職人なのか? カメリエラ (ウェイトレス) が注文しても返事もせず、ときには怒ってみせたり。うーん。もしや写真など撮っていたら怒られるのでは? と思っていたが、カメリエラが「写真を撮っている」といっても無反応だった。
出てきたピザを見て納得。左から緑のルッコラ、白いリコッタ、赤のトマト。しめてイタリアの国旗でございました。それで名前が「イタリア」見た目にはいいが、できればそれぞれを一緒に食べたかった。食べる時は別々になってしまうのがもったいない。
ここの空間は照明が電球のみで薄暗い感じにしていたのがいい雰囲気に仕上がっていた。夜だったらもっとよかったかも。帰り際にすぐ近くでピザを作っていた職人に挨拶をしようか迷っていたが、驚いたことに席を立つと向こうの方から「サンキュー」と言ってきた。んー、イタリア人はわからないものである。そして昼だったせいか席料も取られず、しかもオーダー用紙をなくしてくれたおかげで「イタリア」7ユーロのところ 6ユーロで計算されていた。まぁ、生きていればこういういいこともあるさ、と前向きにいこうと思った一日だった。



あってはならないこと
まだ夜もあけない午前4時すぎに目を覚まし、5時前には家から少し歩いた停留所でトラムを待つ。少ない通りはトラムがすいすいとかけぬけ、あっという間に目的地に着いた。朝早いので最寄りの停留所では降りられないので、トラムを降りてしばらく歩く。日本でいえば稚内と同じ位の緯度にあるこのミラノという街。もう3月になったとはいえ、凍てついたような寒さの中に放り出されれば、人はみな震え上がって当然だ。それでも目的のためにはそれは度外視する。
警察の入り口の前には誰もいず、隣りの車のショールームにそれらしき人々がたむろしている。5時半だというのに、たくさん人がいる。これが外国人の生きるべき道である。待つ人々は南米系と中東の人々が多い。僕が申請に来たのは日本人はあまり申請しない変わった書類。インディオっぽい優しそうなおばさんに声をかける。するとリストを作って順番を取り仕切っているやつがいるらしく、そいつに言って待ちなさいという。その仕切り屋は警察の人間なのか? 違うとしたら一体何のために仕切っているのか? とにかくリストに名前を記入して待っていた。
7時頃になるとその仕切り屋が列を作り始める。申請に来た輩はみな、自分勝手で遅れて来ていても前に入れろだとか、リストなんか関係ないだとか、とにかくなんだかんだと言う。僕はもうこんなのには慣れたが、日本人なだけに「おとなしくしてたほうがスムーズに行くのに」と常々思う。それでも自己主張すべきところでは強くならないと自分がバカを見るのが外国だ。
僕は34番目だったが、リストも後方になるといい加減で、東洋人は僕とあと中国人だったので「お前はさっさと並んでいい」と仕切り屋に言われサッサと並んだ。普通に滞在許可をもらうにも列を崩したりして割り込んでくるのは当然なので、すべてが終わるまで何もかもに気を抜くことはできない。まわりではスペイン語がよく聞こえてくる。
後続の人間が自分の前に行かれないように足を横に伸ばして立っていると「寒いからみんなの中に来ただけよ。あなたの前に出る気はないわ。安心して」というスペイン系の女が隣りに来たが、何も信用できない。こいつも遅い時間にやって来ていたやつだが、そいつはまだ穏やかだったから僕を抜かして前に出ることはなかった。
あやしいのは仕切り屋が点呼していたときに来た「リストなんか意味がない」俺を先に入れろと言わんばかりに叫ぶ中東系の男。扉の開く予定の8時すぎになり、いざ警察に入るというときに、僕のずっと前の方に並んでいた中国人の通訳なのか? 列に並んでいなかった中国人が仲間のところに行こうとした時「なんでお前入ってくるんだ!」と自己正当化したかのようにして僕らの前に進む。すかさず僕はそいつを静止させ「とにかくお前は後ろに並べ」といい、僕の前にいた南米系の小さな女が罵声を浴びせていた。こいつは今日の登場人物の中でもヒトクセあるやつでマークしなければならなかった。
まだ10人もオフィスに入れてもらっていない時点で「手に滞在許可書を用意しろ」と言われながらも一旦扉が閉められた。それでもしばらくはおとなしく並ぶ人々であった。しかしそのおとなしさも長続きしないのが外人であり、刻一刻と事態が変わっていくのが、先進国とは言い切れない事情の国での出来事だ。オフィスの開く公式の時間は8時半である。警察のオフィスの入り口近くには、この時間になってようやくやってきた人々が扉を開けようと試みる。警察に用事のある車が入る時を狙って警官に訪ねている人間もいる。
その頃にはもうほぼ列は崩れてなくなっていた。9時もすぎ警察も出てこなくなったとき、いつのまにか事態はすべて変わっていた。さっき僕のとなりに来ていたスペイン系の女が仕切り屋になっていた。何かが変わっていたのがわかり、女がまたリストを作り各々名前を書き込んでいる。とにかく事態は読み込めなくとも名前は書いておかなくてはと思い、めちゃめちゃにされた順番だったものの、僕は自分の前にいた女は味方に付けておいた方がいいと思い、自分に回って来たペンを女に先に渡して書かせて、それから自分の名前を書くようにした。それからしばらく警察の前で待っていた。
一体何の意味があるんだろう? と疑問に思いつつもそのまま待っていると、仕切り屋の女と列を抜かそうとした中東系の男が、ものすごくわかりやすいイタリア語で親切に教えてくれるのだ。「20時に来てこのリスト通りに並べば受け付けてくれる」と。僕はこの時点でピーンと来た。「きっと今日はダメなんだろうけど、とにかくこいつらの言うことを信じてはいけない」最初の仕切り屋はオフィスの中に入っていったが、だいたいこのスペイン系の女が何故仕切っているのかわからなかったし、もっとわからないのは中東系の男の豹変ぶりだ。
僕は警官に事態を聞くまでは警察の前にいようとした。スペイン系の女を含め何人かは帰ったが、中国人や中東の男はうろうろとしていた。インド人っぽいオヤジは「夜の8時に来ればいいのにいつまで待っているんだ?」「そういうアンタもなんでいるんだ? アンタも帰りなよ」と言い交わす。
やがて警官が出て来て言う。申請書類を引き取りに来た人の持っているチケットを指差して「このチケットを持っているやつは誰だ? そいつはいまここに並べ。申請に来た人間はまた明日の朝に来なさい」とだけ言ってオフィスに戻ろうとする。「ちょっとまて!!」「オフィスは閉まった」「オフィスは何時に閉まるんだ」「オフィスは閉まった」「何でだ!」「今日は規定の30人をすでに受け付けたから、また明日の朝に来い! リストなんて俺らには関係ない」10人すら入っていないはずのオフィス。それを考えれば列に並ばないでも受け付けてもらっている人間がいるのか? 先頭にいた中国人もあやしい中東系の男もとぼとぼと帰っていった。
そういえば最初の仕切り屋に「昨日の晩に来てリストが・・」云々を言っていたやつもいた。毎日同じ争いを繰り返しているに違いない。僕は夜8時なんかに改めて警察に行くわけなんかない。これは手だてがない。何ができるかわからないが、次なる手段を講じるしかない。朝から4-5時間、クソ寒い中での出来事は寒さで疲れがひどく、そして精神的にも叩きのめされる。これが外国人としての生きる道である。できることなら歩むべき道ではない。しかしこの屈辱は記録として残しておくべきである。
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