今週の映画!! (10/10)
(10/10)公開の見たい映画
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2009年10月10日(土) より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
(10/10)公開の見たい映画
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「タンゴ〜ガルデルの亡命」「スール、その先は・・・愛」で知られる名匠フェルナンド・E・ソラナスが、地球の遺産ともいうべき大自然を圧倒的な映像世界に包み結晶させたー大映像叙事詩。音・映像・詩の洪水と共に心にしみ込む様な詩的世界。美しい映像の奥にラテンアメリカの慢性的な“政治腐敗”と“経済危機”というメッセージをユ−モラスに告発、南米に抱く世界中の幻想を打ち砕いてゆく。中南米の政治的背景を知らなければ理解しずらい部分も。監督はこの作品でアルゼンチンの腐敗を激しく批判し続けたため、メナム大統領に名誉棄損で訴えられ、法廷で証言した翌日、狙撃されてカンヌ映画祭に松葉づえ姿で登場した。また不世出のバンドネオン奏者、タンゴ音楽の革命児アストル・ピアソラの遺作になったことなどでも話題になった一本。祖国へのオマージュを前衛的手法と独特の映像美でコラージュしてきたソラナスだが、ここでは観るものを圧倒する幻想とアイロニーとユーモアたっぷりで、明確なストーリーを追っているため比較的わかりやすい。「イベロアメリカ」とは、ヨーロッパのイベリア半島に位置するスペイン、ポルトガル両国と、ラテン・アメリカのスペイン語やポルトガル語を母国語とする諸地域の、このふたつの地域の総称であるようだ。
<物語>
アルゼンチンのフエゴ島にある《世界で最も南の町》ウシュアイア(Ushuaia:パッケージの解説や字幕では「ウスワイヤ」と記載されている)からペルーに亡命し、父親を追ってパタゴニア、ブエノスアイレス、ペルー、アンデス、アマゾンなどを経て、メキシコまで南米大陸50000Kmを自転車で縦断する16歳の少年を描く、ラテン・アメリカ諸国を舞台とするロード・ムービー。彼はその旅を通し、未知なる風景、失われたインカ帝国、マヤ文明の廃墟、秘められた略奪の歴史などに出会ってゆく。
アルゼンチン最南端の島、フエゴ島の「世界の最果ての町」ウスワイアに住む高校生マルティンは国立師範学校に通っている。抑圧的な学校での方向性には夢を抱けず、家では義父と折り合いが悪く、妊娠した彼女は自分に相談もなしに堕胎したことから、ある日、派手なケンカをして家を飛び出す。実の父に会うために自転車で旅に出る事を決意する。
広大な大地が果てしなくひろがるパタゴニア、洪水で浸水した首都ブエノス・アイレス、先住民たちに日々増額する税金を強制するボリビア、現代の奴隷労働を思わせるブラジルの鉱山での非人間的な労働などを経験しながら、自分が今まで知らなかった世界を垣間みる。彼の行く手には南アメリカのすばらしい、しかし過酷な自然があり、その土地で生きる人々がいる。またラテンアメリカの国々が抱える厳しい現実と政治的混沌を目の当たりにすることになるのだ。旅は少年を大人の男へと成長させ、そしてついに実父との再会のときが来たのだが。父親の実像を知るにつれ一人の人間が生きて行く上での悩みは自分自身が決定していく以外ないのだと認識し、父親への精神的依存から自立していくのだった。
<ちょっと難解なロードムービー>
この映画の原題は "EL VIAJE"(エル・ヴィアヘ〜旅)。
ラテン・アメリカ縦断ということで、パタゴニアの風の大地や、ペルーの空中都市マチュピチュなど、マルティンの行く先々で観られる美しい風景も感動的な美しい映像で見せてくれる。旅する少年の目を通して、南米の雄大な自然と政治的な混乱、そしてラテンアメリカが抱える厳しい現実と迫害の歴史を目のあたりにすることになる。
主人公はマゼラン海峡を渡りパタゴニアへ。そこではイギリスの石油資本が土地を半植民地化している様子が描かれる。そしてブエノスアイレスへ行くが、洪水で水没している。そこでチリからの亡命者と会い、独裁政治退陣後も逼迫している国情を訴える。ボリビアからペルーへ。貧困のにあえぐ住民の姿が映し出され、次に行くブラジルでは対外債務で首が回らない国家情勢が、パナマではアメリカとの戦争で疲弊しきった国情が描かれる。まさに地獄めぐりのロード・ムービーだ。
「失われた10年」と呼ばれ、債務とインフレにあえいだ80年代が終わり、「比較的安定」していると言われているラテンアメリカの国々。でも彼らが抱えるさまざまな問題は根が深い。政治腐敗、政治不信、持つ者と持たざる者の大きな経済格差、終わらないゲリラ抗争。スペインに征服された「新大陸」は、500年たった現在も出口を見つけられずにあえいでいる。そして新たに加わった「環境破壊」という大きな問題。
痛烈な批判をこの監督得意の徹底的なシュールな演出で成し、腐敗のバカバカしさを際立たせる。「今日は傾斜日和です、右に32度傾きます」のニュース。壁をすべり落ちる偉人の肖像画。水浸しの街にやってきた足ヒレをつけた「カエル」という名のラナ大統領はカエル姿で「しっかり泳げ」。「この島売ります」の看板には日本語で「ウリマス」の文字。太鼓を打つティトに「何から逃げてるの?」と聞けば「忘却からだ」と答え、太鼓の中にはテープレコーダー。ひざまづいてやる社交バレーボール大会、駆け巡る「収税トラック」等。さまざまなメタファーを使って「本来、あるべき姿にない」ラテンアメリカの混沌を表現している。
第2章の「ブエノスアイレスへ」では、水没したビルの爆破シーンや政治腐敗を象徴するシーンがあるが、第1章の教育現場の荒廃を象徴するシーンと同様に、既存の疲れきった権威や制度の崩壊と考えれば、現在の日本の状況と酷似しているかもしれない。川の氾濫かなにかで街がすっかり水浸しになってしまっていて、住民たちが移動に使う船が建物の間を行き交っている。墓から棺桶は流れ出すわ、ウンチはそこいらを漂っているわで、けっして綺麗なだけ映像ではなかった。首都が水びたしになっても平然としている市民は、汚職や政治腐敗など、「あってはならないこと」に慣れきってしまった彼らを比喩しているのだろうし、原始的な方法で進もうとするボートは、ラテンアメリカの象徴なのかもしれない。そして時折現れる赤い服の少女は、幻想、それとも希望?廃虚のような学校でプロパガンダ教育を受ける学生たち、国民に拘束帯を付けるように訴えるテレビ、ジャングルの中で微笑む少女、主人公の父親が描く物語に登場する英雄がアニメーションで描かれる等。この技法は凡百の作家が使うとシラけるところだが、切迫した作者の確信犯ぶりは観客の冷笑的な態度を許さない。
なぜなら、ここに描かれることは(多少の誇張はあれ)すべて事実であるからだ。中南米ほど西欧列強の蹂躙と搾取を強いられている場所はないのである。ペルー奥地には未だに奴隷制同然の労働環境が存在すること、アルゼンチンが借金のカタに領土を切り売りしていること、そしてアメリカのパナマ介入の真相だ。
邦題のラテン・アメリカの「光」とは何だろうか。マルティンの未来のことなのだろうか。「影」のほうは、奴隷制度などのラテン・アメリカが持つ悲惨な過去の歴史のことや、現代の腐敗した政治家たち、マルティンが通う学校の管理的で威圧的な先生たちなどが、皮肉たっぷりに、そしてユーモラスに、繰り返し描写されている。これらは、マルティンが追い求めている「父性」に含まれる、対決し、乗り越え、克服すべき、影の部分を象徴しているようだ。観念的なメタファーが映画のいたるところに存在していて、ラテンアメリカの映画や文学によく見られる、現実と幻想が混ざりあう「魔術的リアリズム」の手法も取り入れられてるもんだから、(かなり)難解だったりもする。この映画は童話的な雰囲気を持っていて、「父に会いに行く旅=父性を求める旅」ととらえて観ると、旅の途中でマルティンが出会う人々やできごとは、それぞれが何かを象徴するものとして浮かび上がってくる。全編にわたって少年が求め続ける「実父」という存在は、少年にとって「手に入れることができない真実」を意味していたのか、それとも「ラテンアメリカの統合」を意味していたのか?
マルティンの実父は地質学者から童話作家となり『道を造った人々』という処女作を彼に残して去った。父に会いに行く旅は、その絵本の内容そのもの。画中のトラック運転手、インコンクルーソにも出会う。「僕のお父さんのこと知ってる?」「知らないが造ったのは俺さ!」「道、わかってんの?」「知らないよ、想像して走るのさ。迷ったことはないね」本一冊づつが、この世のどこかを転写していることをマルテインは体感したのか。ウシュアイアでの恋人、ヴィオレッタの家は、じつにかっこいい本屋。
第3章の「原初のラテンアメリカを渡って」では、牧師の語る言葉がラテンアメリカの気持を代弁している。「ラテンアメリカの先住民は安い給料で酷使され、日本や世界のブタどもを太らせている。」 持つ者と持たざる者との大きな経済格差。世界人口の90%が飢えで苦しんでいるという現実。そうした国々を、日本人や白人が経済的に侵略しているという事実を再認識させられる。旅の映画でもあり、童話のようでもあり、政治風刺でもある、重層的な構造を持っている作品。 この政治的フィルムを少年の成長をからめた作劇にしたのは正解で、さわやかな青春映画の雰囲気が重苦しい題材を中和し、大自然を旅するロードムービーとして見ても、十分に楽しめる。
<音楽>
サウンド・トラックには、監督でもあるフェルナンド.E.ソラナス、ブラジルの音楽家エグベルト・ジスモンチ、そして日本でもすっかり有名になったタンゴの名手ピアソラの音楽がふんだんに使われ、彼独特の不協和音になりそうでならない音の重なりが、映画にほどよい緊張感を与えている。マルティンがマウンテン・バイクで移動するシーンに使われる、ピアソラのタンゴ『ミロンガ(Milonga)』が特に印象的。まるでこの映画にあわせて作られたかのようにみごとにはまっていた。そして、この映画の監督のソラナスが作った幻想的なバラード『ウシュアイア(Ushuaia)』を歌っているのは旅する主人公の同級生役、ミュージシャン志望の不良少年役を演じる FITO PAEZ。彼はアルゼンチンを代表するロック歌手である。そのほかにも、『ブエノスアイレスの洪水(Floto en Buenos Aires)』など、印象的な曲がたくさんある。


『ラテンアメリカ 光と影の詩』
1992年 アルゼンチン=フランス合作
原題 EL VIAJE
監督 フェルナンド・E・ソラナス
出演 ウォルター・キロス、ドミニク・サンダ 他
音楽 アストル・ピアソラ、フェルナンド・E・ソラナス 他
1992年カンヌ映画祭高等技術賞受賞
フェルナンド・E・ソラナス監督
1936年、アルゼンチン、オリボス生まれ。数百本のコマーシャルを製作した後、1968年、初の長編映画『燃える時』を発表。高い評価を得るが、軍部の検閲により公的な活動を制限される。1976年の軍事クーデター直後にフランスに亡命。パリに住む亡命アルゼンチン人を描いた『タンゴ〜ガルデルの亡命』(1985年)は、ベネチア映画祭など多くの国際映画祭で賞を獲得。帰国後は、「帰還」をテーマにした『スール』(「南」の意)を完成させる一方、この「ラテンアメリカ光と影の詩」で政治腐敗を激しく批判し続け、メネム大統領に名誉毀損で訴えられた。1991年、法廷での証言の翌日、「何者かに」銃撃を受け、負傷するといった事件も起こっている。オクタヴィオ・ゲティーノという監督と共に「第三の映画」という映画論を持つ。これは自分たちの作る映画が商品としての映画でも実験精神の表れでもなく、革命の意識と精神の表れであり道具であるという主張である。
伝説の革命家、チェ・ゲバラの青春の日々である。
「チェ」とは親愛の情を込めたゲバラの愛称。キューバの子供たちは今でも口を揃えて「チェのようになりたい」と歌う。チェの遺志は人々の心に永遠に生き続けている。キューバ革命時、十数人のゲリラから始まった革命軍は、二万人にも及ぶ政府軍と闘い、時のバチスタ政権を倒し、貧困に苦しむ人々を抑圧から解放した。その後の彼は名誉や地位をあっさりと捨て、理想を求め、国境を越えた新たな革命へと旅立つ。彼はコンゴ、ボリビアで闘い、ついに銃弾に倒れ夢に散る。
「自由を求める人々が僕のささやかな努力を望む限り闘い続ける。永遠の勝利まで。革命か死か。」ゲバラがカストロに宛てた別れの手紙。 「チェの思想が実現していたら、世界は違ったものになっていただろう。戦士は死ぬ。だが、思想は死なない。」カストロはそう返した。
23歳の裕福な医学生エルネスト(ゲバラ)は親友アルベルトとともにおんぼろバイクに乗って南米大陸探検の未知への旅に出る。それは、好奇心のままに10000キロを走破する無鉄砲な計画だった。アンデス山脈を抜け、チリの海岸線に沿って進み、アカタマ砂漠を通ってペルーのアマゾン上流へと。
旅の途中には、彼らにとって未知の姿のラテン・アメリカとの出会いが待っていた。政治的信念を持ったがために土地を奪われた夫婦との出会い。インカ帝国の栄光と現代のまとまりのない都市風景とのコントラスト。隔離医療施設に閉じ込められた人々とのふれあい。ついにベネズエラに着いた時、ふたりが旅した距離はキロ単位でははかれないまでになっていた。ラテン・アメリカ深部への旅は彼らの生涯の最初の揺らぎ、生涯変わらぬ情熱と原動力となる。運命の軌跡、自我の確立、一個人がアイデンティティとこの世界における居場所を見つける旅、それはまた、私たちにラテン・アメリカのアイデンティティの軌跡をも見せてくれる。
チェ・ゲバラの革命者としての人格の基となった青春時代の旅での日々、その道中を描いた映画、それがこの「モーターサイクル・ダイアリーズ」である。チェ・ゲバラが尊敬していた革命家はあの坂本竜馬。私たち日本人のアイデンティティとは何であるのかということも想起させられる。
「あの頃世界で一番かっこいいのがゲバラだった」ジョン・レノンはこんな言葉を残したという。

【原題】THE MOTORCYCLE DIARIES
【制作】2004年 イギリス・アメリカ合作
【制作総指揮】ロバート・レッドフォード
【監督】ウォルター・サレス
【原作】エルネスト・チェ・ゲバラ「モーターサイクル南米旅行日記」
【出演】ガエル・ガルシア・ベルナル ロドリゴ・デ・ラ・セルナ ミア・マエストロ
【上映館】10月9日より恵比寿ガーデンシネマ 他
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